
梱包の包みをほどき、作品が現れた瞬間、驚き、感激してしまいました。3年ぶりの木下晋氏の個展、本日より始まりました。木下さんは、パレットの色を選るように、濃淡20段階の鉛筆を使い分け、生の深淵に迫るような人物画を描くことで名高い作家。木下さんは、壮絶な人生を歩み、心に深い闇と、それと裏返しの確かな光を秘めた人物をモデルに多くの作品を描かれています。中でも、代表作として圧倒的な存在感を放つのは、日本最後の瞽女として人間国宝に認定されていた小林ハルさんを描いた一連の作品です。そのハルさんも残念ながら2005年の4月、105歳の長い生涯を閉じられました。

木下さんの描かれるハルさんの表情には、「奢り」がありません。社会福祉の概念なんてまだなかった時代の片田舎に、盲目に生まれ、瞽女として虐げられながら、(時にはシャーマニックに祭り上げられもしたという)壮絶な運命をたどった女性であるのにも関わらず、木下さんのフィルターを通して描かれたハルさんには<自己憐愍>という「奢り」すら感じられないのです。そして、木下さんの、目を見張るような緻密な筆致の集合も、その常識外れの才や執念に溺れることなく、ぶれることなく、ハルさんが亡くなる直前まで、その姿が宿す静寂を描き切っていました。
「生の深淵」という言葉が今更ながらに蘇ります。”次生まれてくるならば、何に生まれてきたいかと”木下さんがハルさんに尋ねた時、ハルさんはこう答えたそうです。”例え、虫ケラでもいいから、「目明き」に生まれたい”。
南室にて木下さんが挿絵を担当された絵本「ハルばあちゃんの手」(福音館書店刊)の原画展を開催しています。また、6/3(土)夜6:00〜からリブ・アート北室にて講演会「手に想う」を開催致します。是非、ご参加下さい。(http://liveart25.exblog.jp/i3)